社会は人間の意思によって動き、動かされ、動いているものばかりです。
商品・サービスを提供するのも人間であれば、それを購入・利用するのもまた人間です。
人間の購買行動についてアプローチするマーケティングにおいて、人間の行動に関して科学的に考えていくことは大切なこと。
人がどのような時にどのように行動するのかを把握し、自分たちが得たい結果に誘導するために行動心理を役立てるのです。
成功しているマーケティングには必ずといっていいほど行動心理を利用した戦略が隠されており、この知識を少しだけ持って活かしていくことが重要だと言えます。
本日は、前回のブログに続き、行動心理について、実際に使える行動心理のコツをご紹介します。
目次
これは1987年に心理学者ダニエル・ウェグナーが行った実験です。シロクマの映像を見せた後に3つのグループにそれぞれ、次のように伝えました。
グループAに「シロクマのことを覚えておくように」
グループBに「シロクマのことを考えても考えなくてもいい」
グループCに「シロクマのことは絶対に考えないように」
1年後、最もシロクマの映像の内容を覚えていたのは、グループCの「考えないで下さい」と言われた人たちでした。
これは考えるなと言われるほど考えてしまうという「皮肉過程理論」という行動心理現象のこと。
覚えなくていいものを覚えてしまうという確かに皮肉な行動心理です。
人が目、耳から受け取る「言葉」には時によって、私達の行動や意思決定を促すような行動心理学のトリックが隠されていることがあります。
ほとんどの方が「おおざっぱ」と思われたと思います。
日本では性格と血液型を結びつけることが多くあるために起こる確証バイアスと呼ばれるもの。
バイアスとは心理学において「思考の偏り」のことを意味します。
簡単に言うと先入観です。
例えば目の前に外国人が立っていれば外国語を話すと思いますよね?
自分では論理的に考えたつもりでも、人間はこれまで培ってきた経験や勘を元に自分に有利だったり、都合の良い結論を脳が導き出してしまうというもの。
「ヒューリスティックの概念」によって導かれた答えにはその人の経験や思考が元になっており、その多くはバイアスがかかったものと言えます。
その代表的なものが「ハロー効果」。
人が物事の評価をする際、その評価がある特徴によって変化してしまう現象のことです。
だから人は「実績数〇〇以上」「〇〇ランキング1位獲」という言葉には弱いのです。
ヒューリスティック効果とは人間の意思決定に影響を与える心理効果の1つで、物事を全体的に捉え論理的思考に基づいてではなく、無意識に経験や先入観から答えを導き出してしまうこと。
これを正しく認識すると効果的なマーケティング手法として活用できます。
多くある商品・サービスを瞬発的・無意識に商品を選び、手に取る、絞り込みの段階で、このヒューリスティック概念は重要な役割を果たしているからです。
1代表的ヒューリスティック
代表的・典型的に属する事柄を過大評価し判断に影響を与えること。
固定観念や先入観によって判断してしまうことです。
有名なリンダの法則をご紹介しましょう。
【リンダは31歳・独身女性・外交的で聡明・専攻は哲学・学生時代には差別や社会正義の問題に関心があった・反核運動にも参加したことがある】
さてリンダが当てはまるのはどちらでしょうか?
A:銀行員 B:フェミニストな銀行員
Bを選んだ方が多かったのではないでしょうか?
冷静に考えると両方とも銀行員ですが、リンダの人物像の説明がフェミニストの固定観念に一致していることからBを選ぶ人が多いのです。
2想起(利用可能性)ヒューリスティック
自分が見たもの経験して思い出しやすいものを過大評価し判断に影響を与えることです。
コンビニと歯医者、どちらの方が多いと思いますか?!
これはコンビニを選んだ方が多かったのではないでしょうか?!
実際の数は歯医者の方が多いのですが、普段利用することの多いコンビニを過大評価して判断に影響を与えています。
つまり接触回数を増やしたり定期的なSNSに発信するイメージ戦略がこれです。
3固着性ヒューリスティック
最初にみた数字や条件が基準となってその後の判断に無意識に影響を与えることです。
定価で30万円だったバッグと割引されて30万円になったバッグとでは同じ金額にも関わらず、後者の割引されて30万円の方が得だと感じてしまう。
このように先に示された情報が基準となって人の判断へ影響を与えることです。
過去の体験や経験などをもとに特定の条件と特定の行動が結び付けられてしまうという効果のこと。
簡単に言うと物の形状や特徴を見るだけでどういった行動を取ればいいのか紐付けられているということです。
例えば水道の蛇口があれば・・・それを回せば水やお湯が出る
ドアの取っ手を見れば引き戸か押し戸かがわかる
マーケティングにおいてWebサイトは青文字をみればそれがリンクであることがわかります。
このアフォーダンス理論がしっかりと組み込まれたサイト設計がされていると、不要な説明文が必要なくなり、すっきりとしたデザインになります。
1933年ドイツの精神科医へドヴィッヒ・フォン・レストルフによって提唱されたIsolation Effect(孤立効果)と呼ばれるものがあります。
似たようなものが並ぶ中で、1つだけ周囲と異なるものがある場合、人はそれを他のものより認識しやすくなり、後で思い出しやすくなるというもの。
例えば、全体的に緑で抑えられたWebページに赤色のクリックボタンを設置すると、人はそれに反応したくなる。
このような色の働きを効果的に消費活動へつなげている会社がAmazonです。
取引している商品のジャンルが多岐にわたるAmazonのECサイトでは商品を引き立たせるために全体を白と黒を基調として控えめに設定されています。
しかし最終目的である購入ボタンは目立つオレンジ色で設定されており、最大限にこの孤立効果を発揮させています。
このように1箇所だけ目立たせるようなデザインにすることが重要で、強調している部分が多すぎたり統一感がなかったりすると効果は発揮できません。
もちろん1999円の方が安い。
たった1円ですが、とても得をしたように感じるのはナゼでしょう。
これは端数効果の心理といいます。
買い物をする時、端数がたしかに「9」「90」で終わるものが多いですね。
これは消費者テストを繰り返し分析結果を踏まえてのもの。
10個の商品の価格をどのくらい正確に覚えているかという実験を行ったもので、その結果端数が「9」以外の7、6、5、4などの端数より「9」と答えた客の数が多かったそうです。
【商品:強力なメガネの曇り止めスプレー】
A:たったの10秒!
このスプレーをメガネに吹きかければ満員電車でマスクをしていてもメガネが曇りません。
B:たったの10秒!
満員電車でマスクをしてもメガネが曇らなくなる方法
これはツァイガルニク効果です。
10秒何をするのかをあえて「方法」という言葉の中隠すことによって内容は途中で中断された状態になっているため続きが気になってしまいます。
【広告:売れっ子コピーライターセミナー】
A:私は年商5000蔓延のコピーライターです。
Webでも紙でも高い反応率を出せる行動心理の秘密をお教えします。
B:コピーライディングを本気で学びたい人以外は見ないで!
Webでも紙でも高い反応率を出せる行動心理の秘密をお教えします。
カリギュラ効果です。
〇〇しないで・・・と言われると逆に行動したくなってしまいます。
【チラシ:学習塾の生徒募集】
A:我が子の成績にお悩みの方へ
B:我が子の成績にお悩みの○○市在住の中学のお母さまへ
これはバーナム効果。
成績のお悩みの方というだけでは、誰へという具体性に欠けています。
地域密着のビジネスならば思い切ってよりターゲットを絞った書き方をしてみましょう。
【Sale】
A:今なら55%OFF
B:全品40%OFF レジにてさらに25%OFF
これは少し難しいですが、じつはシャンパルティエ効果です。
両方とも55%OFFに変わりはないのですが、2段階で割引をされると得をした気分になります。
このようにお得感を演出する効果もあるんですね。
【商品:46000円の美顔器】
A:こちらの46000円の商品
今なら1年間の分割でお支払いが可能
B:こちらの46000万円の商品
今なら1年間の分割で1ヶ月なんと3900円、1日約130円!缶ジュース1本分の料金です。
分割支払いはフレーミングの効果。
どうでしょうか?!1日130円になると、さほど高価な商品に感じなくなります。
5000と答えた方?!答えは4001です。
小学生の頃、よくやった「10回言って」遊びですが、じつは、これがプライミング効果。
先行刺激であるプライマーが後続刺激のターゲットに影響を与えることなのですが、簡単に言うと暗示と言われるものです。
社会心理学者ジョン・バージは被験者に5枚の単語カードから4枚選ばせ、並び替えて短文を完成させるプライミング効果に関する有名な実験を行いました。
高齢者を連想させる(白髪・忘れっぽい・シワ・杖)などを提示された被験者とそれ以外の単語を掲示された被験者を比較。
結果、高齢者を連想させる単語を掲示された被験者は実験後の歩く速度が遅くなったそうです。
このプライミング効果を使用したマーケティング手法としてアンケートがあります。
売りたい商品やサービスに関連するアンケートに答えてもらうことで、それがプライマーとなり、商品を購入するというターゲット行動につながりやすくなります。
私がピアノの前に座るとみんながドッと笑った。でも引き始めると・・・
これは「ピアノコピー」と呼ばれ、ジョン・ケーブルスが音楽学校の通信講座勧誘のために書いたもの、広告業界では知らない人はいない有名なコピーです。
何と書かれたのは1920年代。
なのにこのコピーは100年近くもの間、何度も模倣され、使われ続けている不朽の名作なのです。
これは本書でもご紹介したツァイガルニク効果を使用しているのですが、大切なのは、この短いコピーにはストーリーがあるということ。
何をしてもドジばかりしている冴えない彼。
そんな彼がステージ上にあるピアノの前に座ると観客席は大笑いします。
「あいつにピアノなんて弾けるわけない」
「きっと失敗するさ」
とバカにし始めます。
でもその彼がピアノを弾き始めると・・・
観客席は静まり返り、人々はまるで魔法にかかったように彼の演奏に聞き入り、もう誰も笑う人はいません。
彼が弾き終わった瞬間、観客席からは会場が割れんばかりの拍手喝采が沸き起こりました。
こんなストーリーが想像できませんか?!
私達、人間はこのようなV字回復ストーリーに反応するようにできています。
日常生活に問題が発生し、どん底へ落ちる、逆境を乗り越え成功し、見返してやったぞと優越感に浸り、気分が高揚する。
現実の世界で自分がそうなるのは嫌だけど、ストーリーの中で自分に置き換えることを私達は好みます。
そして主人公に共感した後はその続きが気になり、ストーリーに引き込まれてしまいます。
このコピーはどんな業界でも応用が効きます。
こうした効果実証済みのコピーを取り入れてみるのも1つの方法です。
これは選択肢が多すぎると、無力感を感じて選ぶのが難しくなり、選択した後も「他の選択肢の方が良かったかもしれない」と後悔が残ったり、
迷っていた時間が貴重な時間を無駄に消費したといった感情から満足を得にくい・・・という物にあるれる現代社会ならではの心理。
スーパーマーケットで24種類のジャムと6種類のジャムを並べて行動を分析。
24種類のジャムの置いてある棚に来た客は全体の60%。
6種類のジャムの置いてある棚に来た客は全体の40%。
しかし、24種類のジャムの棚に来た客のうちジャムの棚に来た客のうち購入したのは3%。
6種類のジャムの棚に来た客の30%がジャムを購入しました。
この現象を選択のパラドックスと言います。
選択肢が多いほど人を引きつけますが、選択肢が多い故に、どのジャムにするか決定することは、少ない選択肢から1つを選ぶより難しいことがわかります。
こんなコピーを見たことありませんか?!
無料で試せるのなら・・・損失の恐怖が解消する
まもなくセールが終わってしまう・・・今逃すと損する
正しい枕を使えば得する・・・このままだと損な気がする
これが私達がつい買ってしまう、行動してしまう「損失回避の法則」と言われるものです。
人は無意識に得をすることよりも損をすることを回避しようとする、損をすることが怖いと思う生き物なのです。
利益を得られる状況では利益を逃がすリスク(損失)を回避しようとする。
損失を被る状況ではリスクを追ってでも損失を回避しようとする。
損得が分かれる状況では利益を得ることよりも損失を被ることが怖い。
これらは人が物を選ぶ判断基準に影響を与えているのです。
ですから相手がどんなことを損失と見なすのかを知ることでマーケティングに活かしていくことができます。
反応率に伸び悩むのはご利用になってる販促ツールが間違っているかも・・・
いかがでしたでしょうか。
数ある行動心理学の中から反応率を上げるために使用できるものだけを選んでご紹介いたしましたが、各種理論に興味を持って頂くと同時にマーケティング 活用へのポテンシャルをお感じ頂けたでしょうか!?
いくら経験を積んだプロでもいきなり反応率がいきなり上がる最高の言葉を生み出すことはできません。
思うような反応が得られない場合はプロもABテストを重ねて、言葉をブラッシュアップさせていくことが重要です。
反応に一喜一憂するのではなく、結果が良かった場合はなぜ良い結果がでたのか・・・再現性はあるのか・・・を考え、結果が悪かった場合は要因を分析することも大切。
まずはターゲットを明確に絞り込んだ上でそのターゲットに起こしてほしい感情の変化や行動は何かをしっかり落とし込むこと。
企業の強みをとことん考え、会社の社風に合ったものを考察すること。
または取り扱われている商品・サービスの今後の目指す方向や目的を定めること。
行動心理学はあくまでも販促マーケティングの戦略の1つにしかすぎず、何を誰に伝えたいのかという訴求がなければ、成り立ちません。
訴求を固めてから本書を参考に1番有効だと思われる行動心理をお選びになってみてください。
その上で何より大切にしていただきたいのは伝える言葉そのものの力だということをお忘れになりませんように。
この記事が皆様の販促の参考になれば幸いです。